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    神戸発。オシャレでアートなライフスタイルを応援するマガジン。

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    藤原 志保|ふじわら しほ

     

    1944年、西宮市に生まれる。小学1年生のときより書を嗜むが、30歳のときに墨と和紙を特 質のある素材として再発見する。以降、墨と和紙の間に起こる現象とそれによる表現の可能性を探求し続けて今日に至る。関西や東京の他、パリやニューヨークでも精力的に活動する。

     

    ウェブサイト http://www.eonet.ne.jp/~fujiwara-shiho 

    ARTIST INTERVIEW

    現代美術作家 藤原志保

    墨と和紙の現象学と表現

    ーー墨と和紙という東洋の素材を使った作品に対して、海外ではどのような反応がありますか?

     

    藤原 初めて海外に行ったのは1987年、ニューヨークです。通訳を雇って、ソーホーを、作品を持って回りました。お土産にソニーの電卓だったと思いますが10個ほど用意していました。ギャラリーの受付の方にお土産を渡し、「作品を観ていただきたい」。ディレクターにお会いでき、作品をお見せすると、「これは東洋と西洋が融合した素晴らしい作品だ。だけどギャラリーというよりはミュージアム向きだ」って言ってくださいました。それで、私の道は間違いないと自信がついたの。

     

    その後2012年、2013年とニューヨークで個展を開催したとき、観に来られた人に「ブラックがとっても美しい」って言われ、ニューヨークの人たちは墨色の美しさが分かるんだなぁと思いました。海外では墨と和紙で私のような表現をしている人がいないようなので、海外に持って行って足跡を残したい、私の作品を広めたい。アジアの伝統的な素材をここまで展開して表現できるのだ、と。

     

    そこから東洋独特の文化を感じていただけるのではないかしらという気がします。墨と和紙という限られた素材で表現することは難しいけれどすごく楽しいことで、日本人の気質に向いているんじゃないかしら。例えば俳句では限られた文字数で宇宙を表現する。そういうことができる民族なのではないかなと思います。墨と和紙にはそういう面白さがあるように思うんですよ。

    藤原志保さんは墨と和紙を使った立体作品やインスタレーションを手掛ける現代美術作家。アトリエでは素材同士の間で起きる現象実験にも取り組 み、アーティストとしてだけではなくサイエンティストとしての一面も持ち合わせる。今回は墨と和紙という固有の性質を持った素材の魅力、そして今後の展望についてお話を伺った。

     
     

     

     
    ――藤原さんはもともと書道をやっておられたそうですが、今の立体やインスタレーションの作品に至るまでにはどのような経緯があったのですか?
     
    藤原 書道は小学校1年生からずっと続けていました。祖父が日本画家だったので(藤原二鶴)日本画や水墨画の手ほどきを受けるような環境もありました。本格的に絵の世界に入ったのは26歳のとき、神戸で水墨画を観て、すぐ松本奉山に師事しました。そして30歳のときに絵で生きていこうっていう決心をしたのですが、祖父の遺言に「自分の本当の芸術表現をしたいのなら売絵を描くな、そのために生活を支える仕事を持て」ということでした。それでナースの仕事だけは生活のために続けてきたんです。そして絵では媚びた作品を描かず、自分が思う作品を発表してきました。

     

    立体作品を創る契機になったのは、30歳(1980年)の頃、山口県秋吉台に旅行したときです。ちょうど台風にあって、暗雲が地平線いっぱいにダーッと垂れこめてきたんですよ。そのときに「私が表現したいのはこれだ!」と思いました。急いで神戸のアトリエに帰って、暗雲をウワーッと描いた。すると画仙紙が破れたんですね。そこで、破れも墨と和紙の間で起こる表現じゃないかって気付きました。それからアトリエでいろんな実験をしました。紙をぐちゃぐちゃと丸めて、あるいは、折りたたんで墨に浸けたり、その上から墨で描いたり。

     

    そして発表したのが現象実験作品。表情が面白いだけでなく、墨と和紙の現象が現れるのですね。折り畳み、墨を含ませた紙を水平に置いておくと上の方が早く乾き、墨の粒子が毛細管現象で繊維の間を上昇してくる。だから上は真っ黒、下は白っぽくなるのです。その頃はまだ平面作品でした。当時のアート・ナウ(*註釈)の出品作家や具体美術のアーティストはいろんな素材でユニークな立体表現をしていたのです。それで「墨と和紙で立体やってる人、いるのかしら」と思って、勤務先のクリニックの院長に話しますと、「誰もやってないんやったら君がやったらいい!」って(笑)。それから和紙の立体でいろいろ作品発表を重ねました。

     

    その後、兵庫県立美術館のアトリエで3回個展を開催し(「空」、2009年/「―生―」、2010年/「森々」、2011年)、空間を造形するということを学ばせていただきました。空間を埋めるのじゃなくて、空間を感じさせる。そういうことが本当の空間造形だということに気が付きました。

    ーー今後のプランを教えてください。
     
    藤原 10月の個展「― L i n e ―」(GALLERY 301、10月16日〜26日)で展示させていただくのはモノクロームの平面作品。上半分が墨のブラック、下半分が和紙のホワイト。真ん中に境界線ができるから、タイトルを《Line》にしようと思って。そういうのは他の人も表現しています。油絵具の黒と白で描いている人もおられるし、写真家の杉本博司さんの「海景」シリーズもそう。だからある人に「あなたがこんなんしなくても、他の人がいっぱいしてるでしょ」って言われてしまった。
     
    だけど、いや待てよ、私は墨と和紙の現象の実験をして、表現の可能性にチャレンジしている。和紙に墨が浸透している墨色は独自のものです。作品となっても油彩で描いたのと異なり、和紙そのものが呼吸をしているのです。だからこういう表現も発表しておくべきだ、と結論づけ、この秋に発表することにしました。
     

    今度発表する作品は、約40年前に神戸の寺院のご住職と出会い、禅宗の教えのお話をお聞きしたことが元になっています。過去に周文や狩野探幽らがこのお話を描いておられるようですが、私は墨と和紙の現代美術で表現したいとずーっと考えていました。まだまだ完成しませんが、今回はそのプロローグとして発表したく思っております。

     

    本当は、展覧会で新しいことにチャレンジするのはすごく不安があるし、勇気が要るんですよ。展示していいんだろうかっていう迷いがずっとありました。だけど先日、堀尾貞治さん(現代美術作家)に会ったら、「アーティストは勇気やで、勇気!」って(笑)。この年になると失敗はしたくない。失敗とは、自分の不本意なまま出品するということ。これでいいんだって自分が納得すれば、挑戦した作品でケチョンケチョンに言われても、「私はこれでいいんです」って言えます。書から水墨画、平面からレリーフ、立体、空間造形とやってきた中で、いつまで制作できるだろうか、いつか行き詰ってできなくなるのではないかしらと思っていましたけど、次々とアイデアが生まれてくるから良かったなと思っています。

     

    いろんな美術館で作品を観るだけじゃなく、音楽を聴いたり本を読んだり、自然に耳を澄ませたり、いろんなところから学べます。これから私の作品がどうなるか分かりませんが、大きさだとか形態、造形を一段階超えた作品を、と考えております。
     
     

     
    ※アート・ナウ:関西の現代美術の最新動向を紹介する目的で開かれた展覧会。1973年に朝日新聞社が第一回を主催し、1975年の第二回以降を兵庫県立近代美術館(現・兵庫県立美術館)が引き継いだ。最終回は1988年。藤原さんは1985年に出品。